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#630 / 2009.04.27

なぜ黄金比?

黄金比や白銀比ゆえに美しい、わけではないと思うのです。

デザインの世界では黄金比や白銀比という言葉があります。
これはある2線の長さの比率が 1:(1+√5)/2 ≒ 1:1.618 だったり 1:√2 ≒ 1:1.414 だった場合に、美しいとか安定しているように見える比率といわれています。

表630-1 黄金比 r=(1+√5)÷2
次数rn計算式計算結果(=a)逆数(=1/a)備考
0 r0 1 1.000 1.000 =8÷8
1 r1 r 1.618 0.618 ≒5÷8
2 r2 1+r 2.618 0.382 ≒3÷8
3 r3 1+2r 4.236 0.236 ≒2÷8
4 r4 1+3r 6.854 0.146 ≒1÷8
5 r5 1+5r 11.090 0.090  
6 r6 1+8r 17.944 0.056  

表630-2 白銀比 r=√2
次数rn計算式計算結果(=a)逆数(=1/a)備考
0 r0 1 1.000 1.000  
1 r1 r 1.414 0.707  
2 r2 r2 2.000 0.500  
3 r3 r3 2.828 0.354  
4 r4 r4 4.000 0.250  
5 r5 r5 5.657 0.177  
6 r6 r6 8.000 0.125  

黄金比の詳しい経緯は省きますが、縦横比が 1:約1.618 となる長方形のとき、私たちは美しいとか安定していると感じるようです。
名刺やタバコのパッケージ、ギリシャのパルテノン神殿がこの長方形になっているといわれます。
また白銀比はA4やA5など紙のサイズに見られ、半分に折ることを繰り返しても同比率( 1:1.414 )を保ちます。

iPodも黄金比であるといわれますが、iPod classicは近似しているとはいえ厳密には黄金比ではありません。

表630-3 iPodの縦横比(2009年4月現在)
商品名サイズ(単位:mm)縦横比
iPod classic 103.5 x 61.8 1.6748
iPod shuffle 45.2 x 17.5 2.5829
iPod nano 90.7 x 38.7 2.3437
iPod touch 110 x 61.8 1.7799

とはいえ、iPod classicの高さが3.5mm低い100.0mmだったならちょうど黄金比となり、許容範囲の誤差といえばそうなのかもしれません。

黄金比だから美しいのか?

さて、名刺やタバコ、あるいはパルテノン神殿が黄金比で構成されていることはわかりました。
しかし、それゆえ美しいというのは感性の問題であって、どうにも理解できません。
もっと言えば、黄金比でなければ美しくないのか?という見方もできます。

もし、黄金比が美しさを左右するのなら、世の中の物は黄金比デザインをふんだんに取り入れているはずです。

事実、自動車において厳密な黄金比はそんなに無いようです。
ボディタイプに応じて、代表的な車種の全長全幅比および全幅全高比を計算して見ました。

表630-4 クルマの縦横比
ボディタイプ車種全長(mm)全幅(mm)全高(mm)全長全幅比全幅全高比
軽セダン エッセ(L235S) 3,395 1,475 1,470 2.3017 0.9966
軽トールワゴン ワゴンR(MH23S) 3,395 1,475 1,660 2.3017 1.1254
小型車 フィット(GE8) 3,920 1,695 1,525 2.3127 0.8997
中型車 レガシィ(BP5) 4,680 1,730 1,475 2.7052 0.8526
ミニバン ヴォクシー(ZRR70) 4,640 1,720 1,850 2.6977 1.0756
SUV パジェロ(V97W) 4,900 1,875 1,870 2.6133 0.9973
オープンカー ロードスター(NCEC) 4,020 1,720 1,245 2.3372 0.7297
スポーツカー GT-R(R35) 4,655 1,895 1,370 2.4565 0.7230
クーペ ソアラ(Z20) 4,675 1,725 1,335 2.7101 0.7739

これをみて昨今の自動車販売不振はデザインのせいと早合点する人がいるかもしれませんので釘を刺しておくと、クルマに回せるお金が大幅に減ったことが主因であってデザインは二の次です。
かつてバブル期に流行したZ20型ソアラも載せましたが、1.618の数字は見当たりません。
デザインが黄金比で無いから売れないわけではないのです。

そもそも黄金比が美しいと立証されているならすべての工業デザインがそうなっているはずです。
規格で制約されている軽自動車ならまだしも、黄金比に近い数値は見られません。

ここまでくると、黄金比なんて単に大多数の人間が美しいであろうと感じるのみにすぎない概念ではないかと勘ぐりたくなるのです。
もしくは単なる数字遊びなのでは、とも思うのです。

疑ってみれば、黄金比も結構怪しいものです。
iPodの縦横比もそうですが、「黄金比だから美しい」という言葉を検証せず鵜呑みにしている人もまた怪しいです。

クルマにも限りませんが、「これがいい」と言われたからといって何でも鵜呑みにしてしまうのは、やっぱり変です。

高速道が1,000円だから安いよといわれて渋滞に突っ込んでいき、いろいろ保証がついているからと何も検証せず自動車保険を選んでみたり。
そしてトラブルがあれば一消費者として文句をたらたら言う。
でも、結局選んだのはあなたなのだから、いい面も悪い面もすべて飲み込んで、はじめてわかるものがあるのです。

たまたま自動車を題材に書いているサイトだからこういう視点になってしまいますが、あらゆるものがそうです。

目先の情報に踊らされて高い金融商品に手を出したり、マスメディアが1つひとつのニュースにいちいち批判的になったり同情的になっているだけなのを見てそれを自分の意見にする人がいます。
それは結局、扇動者の意のままに操られているようなものだと思うのですが、あなたはどうでしょうか?

無批判で受け入れるのも結構ですが、理由がわからないことには納得できないものです。

おそらく工業デザイナーも含めた大半の知識人は、黄金比は 1:(1+√5)/2 でiPodも黄金比を踏襲しているらしいことを知っているでしょう。
でも実際は厳密な黄金比ではないし、そもそもなぜ黄金比は美しいのかに対する根拠も持ちえてないのではないでしょうか。

「なぜ」が理解できていないものは、知恵でも情報でもなく、単に知っているというだけにしかならないのです。

「なんとなくいい、らしい」でお金や時間を提供して、徒労に終わったら、結局、高い「お勉強代」を払うだけで終わってしまいます。
しかもそこであらためて「なぜ」を検証しなければ、さらにお勉強代を払わなければならなくなります。
それは、あなたがとるべき行動ではないはずです。

人生なにごとも経験ではありますが、同じことを2度3度繰り返す必要はありません。
知識を集めることは否定しませんが、自分で咀嚼しないうちは薬にも毒にもならないでしょう。

トヨタの製造現場よろしく「なぜ」を5回繰り返そうとまでは言いませんが、せめて1回は「なぜ」を考えてみませんか?

「なぜ」の発想で考えてみよう。

追記(2011.11.02記)

文体を変更しました。

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