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#535 / 2007.09.22

エントリーグレード

本質は、廉価版にこそあらわれます。

自動車を新車で購入しようとすると、どのグレードにするかお金の許す限り選択できます。

とくに廉価モデルをエントリーグレードということがあります。
これは、自社商品を使ったことのない人達に初めて使ってもらうように販売価格を抑えた仕様の意味で使われます。

廉価版ですから豪華装備でなかったり、エンジン馬力をデチューンしたりなどのある程度の原価削減をして提供されるものです。
その車種を存分に楽しむためには、不満が残る感は否めません。

しかしこのエントリーグレードこそ、その車種の品質、ひいてはそのメーカーの姿勢があらわれているのです。

まず、エントリーグレードはたとえ売れ筋グレードであっても、マイナーイメージしか持たれません。
しかも、プロも含めたにわか評論家が最上級グレードばかりを積極的におすすめするから、さらに地味に見られます。
もしかしたらメーカーの広報担当者と強いつながりを持っていて、利幅の大きいグレードを褒めるよう書いているんじゃないか、と疑いたくなります。

また、女性は全体の概観をまんべんなく見るといわれますが、男性は局所的なスペック志向に陥りがちです。
エンジンや装備などで突出した上級グレードに目を奪われて、マイナーグレードはどうしても地味にとらえられがちです。

さらに「安かろう悪かろう」意識で見るドライバーも少なからずいます。
もちろん価格相応であることも珍しくありませんが、ものによっては上級グレードの価値をそのままエントリーグレードに適用している車種もあります。

たとえばスバル・インプレッサ。
初代からWRX、S-GTなど上位グレードと同じボディ剛性をエントリーグレードにも適用しています。
これは富士重工業が自動車メーカーとしては小規模なため、グレードごとにボディを作り分けられないことが背景にあるためです。
しかし結果として、エントリーグレードでも競合車種を凌ぐボディ剛性を持っています。

私も初代に11万km以上乗り続けていますが、確かにコーナリングできしんだ経験はありません。
これこそエントリーグレードでも侮れない、といえる好例でしょう。

ホンダ創業者でもある、故・本田宗一郎氏は「120%の良品を目指せ」と言ったといわれています。
彼の論理はこうです。

100%を目指したら1%のミスをする。
しかしその1%を買ったお客さんにとっては、100%の不良品をお売りしたことになってしまう。
だからミスをなくすために、120%を目指さないといけない。

これはものを提供する側で陥りやすい論理です。
作り手にとってはたった100分の1でしかないですが、使い手には100%、そのメーカーの仕事だと感じてしまうわけです。

私も500本近くコラムを書いていますが、すべて調子がいいわけではありません。

書きたいことの1割もかけなかったときもあります。
読み返すと、何を言いたいのかわからなくて自己嫌悪することも結構あります。
帰宅してから書き始めて深夜3時近くになってヘロヘロになりながらアップしたことも、数知れずあります。

自身が不調でダメだったコラムは多少あったかななどと思っていても、コラムを読んだ人はそんなことはどうでもいいのです。
あまり心揺さぶられない、たいしたことを書いていないなぁと思えば、それが100%と思われてしまうものです。

極論を言えば、自分の1%は相手の100%になる、ということです。
単価が安いからとか1%くらいだから多少の低品質はしょうがないよね、というのは提供者の傲慢でしかありません。

何でもそうだと思うのですが、とくに仕事においても同じです。

人によっては値段で品質が変わってくるときがあります。
要は、高い金くれなきゃいい仕事しないよ、というケースです。
これは、結果的に損をします。

たしかに中小企業では本当に生活できないような低賃金、もしくは給与遅延で働かせている実態もあったりして一概には言えません。
働かないから貧しいのではなく、働いても本当に見返りがない風潮が確実に存在するのです。
高所得者の既得権益のためでしかない貧困に対するボイコットとして働かないのならば、私は賛成です。

しかし生活に困らない人が、さらに報酬に見合った仕事をするよと宣言すれば、結局安い仕事しか来なくなるのです。
するとあいつはその程度の仕事しかできないという雰囲気ができ、さらに安い仕事しか来なくなる。
長期的には悪循環しかもたらさないのです。

そうではなく、低品質がでても仕方ないという意識は捨てることです。

確かに「120%を目指せ」という話は出しましたが、そのままそう書くと今後は頑張りすぎる人が増えてしまうのです。
よくありがちな「頑張れ」節は、短期的な効果しか生み出しません。
10年も20年も高いモチベーションでいられる人間なんか、まずいません。
そうしてうつ病で本当に命を絶ってしまう危険性もはらむので、そんな愚かな精神論でお茶を濁したくはありません。

むしろ、1つずつ丁寧にこなしていくことです。

確かに、スピードが重視され、速さを是とする風潮があります。
しかし行き過ぎれば、人権すら省みず、ただスピード追求に終始してしまうのです。
それは2005年4月に起こったJR福知山線脱線事故が、はっきり証明しています。

ドライブもそうですが丁寧にこなしてはじめて、スピードが出せるのです。
コーナリングと一緒で、しっかり減速して丁寧にステアをきることが速いコーナリングを実現させるのです。
そこを欲張ってアクセルを踏みすぎるから、車体が不安定になり、思うように速く走れないのです。

多少脱線してしまいました。

単価が安いとか体調不良だとわかると、誰でもモチベーションは下がります。
だから、ときには雑になったりします。

でも、そこは踏みとどまって、丁寧にこなしていくことです。
最初はもちろん見返りはありませんが、めぐりめぐっていずれあなたに大きな実をもたらすでしょう。

結局、突き詰めればギブアンドテイクなのです。
それも、かなり時間のかかるテイクです。
しかし、かかった時間以上の見返りがあるテイクなのです。

うまみが少ないからと、雑に扱ってはいけません。
うまみが少ないからこそ、むしろ、丁寧に扱うのです。

あせらず1つずつ丁寧にいけば、何も難しいことはないのです。

1つひとつを、丁寧にこなそう。

追記(2011.11.02記)

文体を変更しました。

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