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#473 / 2006.08.14

ツバサ

行動範囲を広げることは、たやすいです。
しかし、行動範囲をみずからせばめてしまうことは、もっとたやすいです。

多くの人は、自分のツバサで行けるところまでしか行けません。

それは叡智です。
わざわざ未知の領域にふみこんで身を危険に晒さなくてもすむための、立派な知恵です。
とはいえ、未知の領域に踏み込まなければ、自分自身の拡がりはそこで止まってしまうでしょう。

ここで少し、私自身について語ってみます。

私は、東北地方の片田舎で育ちました。
緑豊かな田園都市、といえば聞こえはいいのですが、それ以外は本当に何もない町です。

小学生の時、自分の行動範囲に学区が存在していました。
しかし小さい町でしたから、学区なんてたかだか3km四方しかありませんでした。

学区内にはコンビニもなかったし、本屋もありませんでした。
玩具店などは一番近くて隣町にありました。
それもレンタルビデオ店くらいの小売店なのに、たどり着くまでゆうに5kmはかかるのです。
小学生にすれば、5kmはちょっとした遠征です。

そもそも、学区内には信号機が2基しかなかったのです。
1基は、小学校そばにある押しボタン式信号機。
もう1基は、街を貫く農免道路を横切るための信号機です。
誇張でもなんでもなく、それくらいクルマも人も、そしてものも少なかったのです。
今でこそ信号機は増えましたが、それでも片手で間に合う数しかありません。

一人のときは、学区を出てはいけないと教えられてきました。
それでも不満はなかったのです。
だから、私はその言葉に従っていました。

中学生になっても、行動範囲はほとんど変わりません。
町の中学校はたった1つしかなく、学区が町の半分から町全部になっただけ。
そこではじめて、学区内にコンビニがあらわれます。
といっても、家から自転車で20分はかかる距離にありました。

電車やバスという手段もなくはなかったものの、私は使いませんでした。
電車は1時間に1本。
バスにいたっては、朝昼夕に各1本。
その頻度もさることながら、町境越えという心理的な壁が大きかったのです。

高校生時代も変わらず、自転車がメインでした。
原付免許をとらなかったことも一因ですが、それ以前に原付に興味がなかったのです。
自然と自転車をつかうために、さして行動範囲は広がりませんでした。
でも体力はついたので、20km先の小都市でも行けるという自負だけはありました。

それでも、せいぜい小都市どまりでした。

転機は、高校卒業と同時にきました。
高校在学中から教習所に通い詰めて、同年4月1日に免許を取得しました。

親のクルマを乗り回したとはいえ、行動範囲がぐんと広がりました。
何より、自分の意思でどこにでも行けるんだという悦びが大きかったのです。
その気になれば北海道や沖縄の最果てまでもいけるんだと思うと、すごくドキドキしたのを覚えています。

それからの行動範囲は、何倍にも広がりました。
知らない土地を旅したり、見知らぬ人達と知り合ったり。
自分の持てるものをいろいろ提供することで、新しい何かを手にすることができました。
狭い町の中ではできないことも、広い大地の上では可能になりました。

今になって、思うことがあります。
あの頃のまま自分の領域から出なかったら、今の自分は幸せなのでしょうか?

多分、幸せを感じていたと思うのです。
外の世界を知らないなりに、きっと満足していたに違いないでしょう。

でも、今の自分から見れば、当時の未知領域を未知のままにしておくのは、やっぱり損です。
もし外の世界の情報だけを手に入れていても、すぐに役立たなくしてしまうでしょう。
たやすく手に入れたものは、あっという間に消えていくものです。

あの頃のままなら、こうしてコラムを書いている私自身にはなりえなかったでしょう。
私の生きる世界はここだけだよ、と自身が世界を狭めなくて良かったと本当に思います。
運転免許は、私の世界を拡げるためのツバサだったのです。

別にクルマに限りません。
行動範囲を広げてみればもっと自分に拡がりができるのに、頑なにそれを拒む人がいます。

資金が足りない。
時間が足りない。
ぶっちゃけ、とにかくやりたくない。

ないないづくしで、ひたすら拒むのです。
確かに、それもありでしょう。
大きすぎる夢は、実現以前に心が折れてしまいます。
そうならないために、リミッターをかけるのは1つの叡智というものです。

でも、何でも拒めばいいというものではないでしょう?

抵抗勢力を気取る人間の浅い魂胆なんて、全部わかってしまうものです。
成功すれば「君ならできると信じていた」とすり寄るだけだし、 失敗すれば「私があの時止めたじゃないか」というだけです。
何も考えていないから、とりあえず反対する。
それこそ、本当に負け犬です。

考えることをやめたら、人間、不幸になるのです。
どう転んだって自分にリスクのない人生なんかないのですから、いろいろやってみるといいでしょう。

少し伸ばして届くのなら、伸ばしてみましょう。
それは、君のツバサなのですから。

行動範囲をちょっとずつ広げてみよう。

追記(2011.11.02記)

文体を変更しました。

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